中・高等学校授業設計研修講座　　　　　　　　　　　　　　　 June.11.1996

　　－－「個を生かす授業づくり」－－　　 　金沢市立北鳴中学校　嶋　耕二

　

０．映画　Ｐｒｅｔｔｙ　Ｗｏｍａｎ

　

　　　大会社の社長が街のコールガールの「良さ」を見出した。

　

１．「個を生かす」ということについて

　

　　　教育の今の研究テーマではなくなっている。みんなが当然のこととして

　　　取り組んでいる。誰もがやっている。

　

２．「個」を意識する

　

　　①４０人の生徒一人ひとりがみな独自性を持つ

　　　このころを知りながら１００年間一斉授業を行ってきた。

　　　何故か？　

　　　　・差異よりも類似性を先に注目し、学級を一くくりにする方が先

　　　　・個の差異を知りながら教える方策を知らない

　　　　・個に応じた授業計画、活動、評価、フィードバック、記録・・・

　　　　　事実上不可能

　　　　・日本独特の平等主義

　　②今何故「個」に重点移動が起こったか？

　　　　・「落ちこぼれ」

　　　　・授業水準が上がり、評価を重視し始めた

　　　　・教育機器やメディアの飛躍的な向上

　　　　・個人の要望や注文を出したり、マイペースを進める社会的風潮

　　③「個を生かす授業」が直面する障害

　　　　・時間の問題

　　　　・場所の問題

　　　　・個人差のとらえ方

　　④個人差のとらえ方

　　　　・量的なもの（どれだけ、早く、正確に、多く、うまく）

　　　　・質的なもの（どのように、過程、興味、関心）

　　　　　　　↓

　　　　　　１つの尺度上に並べるわけにはいかない

３．授業形態と「個」への対応

　　①個を生かす教育（個別化教育）

　　　　個々の児童生徒が、自分のねがいや目標を実現するために、自分の好み

　　　　の方法や形態やペースで、知識・技術を習得していくのを援助すること

　　②教育形態

　　　・一斉学習

　　　・小集団学習

　　　・個別学習

　　③一斉学習での個への対応

　　　・学習の方向づけ（オリエンテーション）

　　　・思考の深化

　　　・コミュニケーション

　　　・社会性の促進

　　④小集団学習での個への対応

　　　・個を生かしながら社会性や共同性を育成できる

　　⑤個別学習での個への対応

　　　・量的な個人差への対応

　　　　　学習速度の差→プログラム学習、完全習得学習、無学年制

　　　　　到達度や習熟度の差→習熟度別学習、完全習得学習

　　　・質的な個人差への対応

　　　　　学習タイプの差→適性処遇交互作用（ＡＴＩ）、学習コース選択のひ

　　　　　　　　　　　　　とり立ち学習

　　　　　興味、関心、問題意識の差→学習課題選択、学習課題設定のひとり立

　　　　　　　　　　　　　　　　　　ち学習

　　　　　オープン方式、ＣＡＩ

　

４．新しい取り組み

　　　・モジュール方式→基本的な小さな単位（モジュール）をいろいろ組み合

　　　　　　　　　　　　わせ個へ対応する。

　　　・ＩＧＥ（Individually Guided Education)→生徒の学習速度、学習スタ

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　イル、その他の特性の違い

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　に対応する。

　　　・パッケージ方式→教材のパッケージ化、評価、ＦＢ、深化を自らの到達

　　　　　　　　　　　　度に応じて進む。

※２～４は、水越敏行「個を生かす教育」明治図書　による

５．授業実践例

　

　　・中学校・・・学力（※）の差が大きい　　　※今の考え方

　　・学力が優れている生徒には深化した内容を学ばせたい。そうでない生徒には、

　　　自分の興味に応じた学習活動をさせたい。

　　・ペーパーテストの評価だけでなく、多様な学力（良い面）を 評価してあげ

　　　たい。

　

　　①「電流」（中学校２年生）での実践

　

　　　・理科教育でのある考え方・・・いろいろな授業形態や方法を用いても、

　　　　　　　　　　　　　　　　　　生徒が持っている科学概念には大きく影

　　　　　　　　　　　　　　　　　　響しない。

　　　　　　　　　　　　　　　　　（自分の考え方を頑なに変えようとしない）

　　　・目的

　　　　　直列回路や並列回路内の電流の性質を確実に身につけさせたい。

　　　　　生徒の電流に対する考え方を調査して、その多様性を考慮した授業設

　　　　　計を行う。

　　　・授業設計

　　　　　自分の考えをモデルを使い表現し、発表、討論を行い、自分の考えを

　　　　　意識させる。

　　　　　自分の考えを保持しながら実験を行い、結果との違いを比較させる。

　　　　　知識が有る無しに関係のない、個が生きるような実験の工夫を行う。

　

　　②「生物界のつりあい」（中学校３年生）での実践

　

　　③「遺伝」（中学校３年生）での実践

　

　　④「浮力」（中学校３年生）での実践

　

　　⑤「火成岩の分類」（中学校３年生）での実践

　　　・目的

　　　　　受験期の後半に入り、学習前に知識を持っている生徒が出始める。勉

　　　　　強が苦手な生徒にも学習の目標に迫る発見をさせたい。

　　　　　深成岩、火山岩の分類の着目点を生徒の中から出させたい。

　　　・授業設計

　　　　　深成岩、火山岩という分類を避け、火成岩（深成岩、火山岩）共通点

　　　　　は何かを考えさせる。

　　　　　ここでは、科学者が「岩石内の粒」に着目していることに注目し、生

　　　　　徒が「粒」を見いだせるようにする。

　　　　　映像を用いて、岩石を注意深く観察するように工夫する。

　　

　　⑥「地層」（中学校３年生）での実践

　

　　⑦「課題研究」（中学校１、２、３年生）での実践

　

　　　・「課題研究」とは・・・主に単元末に、自分が興味を持ったり、再度や

　　　　　　　　　　　　　　　ってみたい実験や観察などを計画し、観察実験

　　　　　　　　　　　　　　　し、まとめ発表する活動

　　　

　　　・小集団や個別学習が可能

　

　　　・テストや授業中の観察では見えてこない個の特性が現れてくる。

　　　　（多面的な評価が可能になる）

　

　　※②～⑥は、映像から自分の考えを導き、学力を育成し、評価する授業例

　

６．その他

　

　　　・学級経営（「○年△組ノート」）

　　　　　生徒の中に２冊のノートを回す。生徒が好きなことを書く。

　　　　　生徒と担任、生徒間のコミュニケーション

　　　・生徒指導（不登校生や問題行動を起こす生徒への対応）

　　　　　家庭訪問をしながら、学活で不登校の生徒をどのようにしたら学校に

　　　　　来るか、また、来たときには優しく迎えてあげるように話し合う。

　　　　　どの生徒も大切な学級の一員であることを意識づける。

　　　　 （問題がある生徒を学級の中心の話題にして学級経営を行う。）